LIFE STREAM Black3


 人間たちの騒ぎをよそに星は日常を取り戻した。男は、ライフストリームに溶けてくる心の暗部とでも形容すべき精神が多くなったことに気がついた。男は、なかなか消えずに漂う、そのやみを気に入った。自分が地上に残した刻印がその生みの親だと思うとなおさらだった。男は思う。これを使えば、何か楽しいことができるかもしれない。例えば、ライフストリームをこの漆黒で埋め尽くすような。

 男は星の命に身を潜めて世界を巡り、さらに多くの人間に刻印を刻み込んだ。地上には、日常を無くした人間が多く、そんな者たちが抱える心の暗闇は、男の誘惑によってさらに広がっていった。

 やがて男は思う。これがおれの仕業だとクラウドに伝えたい。これがおれの仕業だと人間どもに伝えたい。それには肉体が必要だった。自分の声で伝えたいことがあった。自分の手で切り刻みたいものがあった。

 母の力を借りようと思った。母の肉体の欠片かけらがあれば、おれもまた肉体を手に入れることができるのだと男は考えた。そして、まず、精神だけで地上に立つ方法を試したが、うまくはいかなかった。男は自分の姿形の記憶を星にわせてしまったので、うまく像を結ぶことができなかったのだ。そこで男は、ライフストリームの中から適当な容姿の記憶を見つけ出し、その姿で像を結んだ。少年の姿をしていた。やがて男は思い出した。地上での活動は、精神の自由さとは比較にならないほど窮屈だ。男は手足となる者をさらに二人作り上げた。地上に立った三人は他人であり、同時に自分自身だった。男の意志の力が作り上げた、星のシステムから逸脱した三人は、現実であると同時に、幻想の中の怪物だった。

 男は未来を思い浮かべた。しもべたちが母を見つけ出す過程で、おれを知る者と出会えば、その精神から、おれはかつての自分を知るだろう。そしてさらに、母の力を借りれば、おれは完全に現実の存在になることができる。もし足りないものがあっても心配はない。クラウドがおれを完全にしてくれる。


──それが始まりになると男は思った。